現代では「〇〇活」という表現が日常的に使われています。就職活動を指す「就活」や、婚活、終活など、人生の節目やライフイベントに関連する行動に対して、略語が当たり前のように定着しています。その中でも、最近注目を集めている言葉の一つが「いく活」です。あまり聞きなれないこの言葉、一体どのような意味が込められているのでしょうか?本記事では、「いく活」の定義や由来、そして従来の「育休」との違いについて詳しく見ていきます。[
「いく活」とは何か?
「いく活」とは、企業に勤める人が子どもの育児に専念するために一定期間仕事を離れる、いわゆる「育児休職」のことを指します。従来であれば「育休(いくきゅう)」という略称が一般的でしたが、これに代わる新たな呼称として登場したのが「いく活」です。
この言葉は、単なる略語の置き換えというだけでなく、育児を積極的に行う活動であるという前向きなニュアンスを含んでいます。つまり、「休む」ではなく「関わる」「取り組む」といった意味合いを持たせている点が特徴です。
「いく活」の生まれた背景とは
この「いく活」という言葉を広めるきっかけとなったのは、日本の電力会社・九州電力による取り組みです。同社は、従業員向けの育児支援制度の一環として、「育児休職」という言葉がもつネガティブな印象を払拭しようと、「いく活」という呼称を導入しました。
なぜ、呼び方を変える必要があったのでしょうか?
「育休」という言葉には、「仕事を休んでいる=仕事をしていない」というイメージが根強く、特に男性社員が取得する際に「キャリアに響くのではないか」「職場の目が気になる」といった心理的ハードルが存在していました。また、休職期間を“休暇”のように捉え、育児への主体的な関与が薄れるという懸念もあります。
こうした課題を解決するために、「育児を積極的に行う時間」であることを明示するポジティブな言葉として「いく活」が誕生したのです。
東京都の取り組み:「育休」から「育業」へ
「いく活」という呼び方が話題になったのは九州電力の事例ですが、実はこのような取り組みは他の地域でも始まっています。特に注目すべきは東京都の動きです。
東京都は「育児休業」という言葉に代わる新しい表現として「育業(いくぎょう)」という言葉を提唱しました。「育児をすることも一つの重要な仕事である」という意味を込めたこの言葉は、単なる制度の呼び方の変更にとどまらず
育児に対する社会全体の価値観を見直すきっかけにもなっています。
都庁内ではすでに「育業」という表現が使われており、民間企業にも呼称の見直しを働きかけるなど、行政として積極的な姿勢を示しています。
「育児休職」を見直す意義
「いく活」や「育業」といった言葉の普及が進む中で、私たちは育児に対する考え方を再定義する時期に来ているのかもしれません。これまでは育児休職を「一時的に仕事を離れること」として受け止める風潮がありましたが、実際には子どもと過ごすかけがえのない時間であり、親としての成長を促す貴重な経験でもあります。
特に男性にとっては、育児に積極的に関わることによって、家族との絆が深まるだけでなく、仕事においても柔軟な発想や視野の広がりといったメリットが期待できます。実際、育児経験を通してリーダーシップや共感力が高まったという声も多く聞かれます。
しかし現実には、男性の育児休職取得率は依然として低い水準にとどまっており、制度はあるのに活用されにくいという課題が残っています。育児休職を取得したものの、「何をしたらいいのかわからない」「ただの休みのように過ごしてしまった」と感じる人も少なくありません。
このような背景を踏まえると、「いく活」という呼び方が与える心理的な影響は非常に大きいのです。
社会全体で育児に向き合う流れへ
言葉が変われば、意識も変わる。そんな期待が込められた「いく活」という言葉には、単なるキャッチコピー以上の意味が含まれています。働きながら子育てに取り組むという現代のライフスタイルにおいて、育児は家庭内だけの課題ではなく、職場や社会全体で支えるべき活動であると再認識することが求められています。
今後も企業や自治体による呼称の変更や制度の見直しが進むことで、「育児=個人の問題」ではなく「育児=社会のプロジェクト」という認識が浸透していくことが期待されます。そして、「いく活」という言葉が当たり前に使われるようになった時、私たちの育児への姿勢は大きく変わっているかもしれません。
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